事件番号:JP2010-0002

               裁 定

申立人:
名称   コンパニー ジェルヴェ ダノン
住所:  フランス国 パリ F-75009 ブールバール オスマン 17
代理人: 弁護士 佐藤雅巳、 弁護士 古木睦美
登録者:
氏名  石谷玲美
住所  愛知県蒲郡市大塚町伊賀久保110番地14 コーポヨシ101号

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、J Pドメイ
ン名紛争処理方針、J Pドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJ P ドメイン名紛争処
理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審
理を遂げた結果、以下の通り裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「DANON.JP」の登録を取り消す
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「DANON.JP」である。
3 手続の経緯
  別記の通りである。

4 当事者の主張
 a 申立人
  申立人は、申立人の登録商標Danoneを実質的に模写し、マークにおける申立人の好
 評を利用する意図をもって登録者によって採択されたドメイン名を登録していることを
 主張する。申立人によれば、登録者のドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こす
 ほど類似し、登録者は当該ドメイン名について正当な利益を有していない、そして当該
 ドメイン名が不正の目的で登録され且つ使用されている。
   従って、申立人は、登録者のドメイン名の取消を請求する。
 b 登録者
  登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則につ
いてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に
基づき、本規則および適用される関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を
下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
同一または混同を引き起こすほど類似していること
(2) 登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと
(3) 登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
以下に、申立人が上記の各事項を証明した否かを審理する。

(1) 同一性または混同を引き起こすほどの類似性
 (ア)申立人の商標(ハウスマーク)の周知性
 申立人は、ヨーグルトの生産量で世界第1位、ミネラルウォーターの販売量で世界第2
位、ビスケットの生産量で世界第2位の企業Group Danone(グループダノン)のヨーグル
ト部門を担当する会社である。同社は、1919年に世界で初めてヨーグルトの工業生産
に成功したアイザック・カラッソの息子ダニエル・カラッソ(Daniel Carasso)の「ダニエル」
のカタルーニア語の愛称である「DANONE」を取り、ダノン社と命名され、「DANONE」
は同社製品のハウスマークとなった。その後ダノン社は、チーズ・メーカーのジェルヴェ
社と合併し、ジェルヴェダノン社となった。申立人は、日本に100%子会社を有してお
り、ヨーグルト製品を生産販売している。同社のウェブサイトのドメイン名は、danone.co.jp
である。申立人の商標「DANONE」、「ダノン」を使用したヨーグルト製品は1980年に
日本市場に導入されて以来、市場に浸透し、同日本子会社の総売上高は2007年度で2
39億円である。同社の製品は、「DANONE」「ダノンヨーグルト」等のように、「DANONE」
および「ダノン」をハウスマークとして使用して販売されている。同社は、多様な媒体で
積極的に広告を行っている。「DANONE」、「ダノン」が、申立人がヨーグルト等の商品に
使用する商標として周知であることは、登録商標「dano」(登録第5094682号)に対
する異議申立事件において特許庁の認定するところである(甲第17号証)
 本件紛争に係るJPドメイン名「DANON.JP」(以下、「本件ドメイン名」という)が登
録された2008年11月24日の時点において、申立人のヨーグルト製品に使用する商
標(ハウスマーク)「DANONE」および「ダノン」は、わが国で既に周知であり、今日に
おいてもそうである。
 (イ)混同を引き起こすほどの類似性
 本件ドメイン名において、「JP」は国コードトップレベルドメインであり、要部は
「DANON」である。この「DANON」と申立人のハウスマークである「DANONE」とを
対比すると、「DANON」から生じる称呼「ダノン」は「DANONE」から生じる称呼「ダ
ノン」と同一である。「DANON」の外観と「DANONE」の外観との相違は、識別上重要
でない末尾の文字「E」の有無に過ぎないから、本件ドメイン名の要部「DANON」は、申
立人のハウスマークである「DANONE」と外観上類似する。
 従って、本件ドメイン名は、申立人のハウスマーク「DANONE」と混同を引き起こすほ
ど類似していると認定する。

 (2) 権利または正当な利益の有無
 申立人の「DANONE」および「ダノン」は、本件ドメイン名の登録時のみならず本件申
立時においても周知であり、申立人はその日本の100%子会社が有するドメイン名
danone.co.jpに対し正当な利益を有する。
 申立人のハウスマーク「DANONE」の世界的周知性および「DANONE」および「ダノ
ン」のわが国における客観的な周知性から判断して、登録者は本件ドメイン名に関係する
権利または正当な利益を有していないと認定する。

 (3) 不正の目的での登録または使用
 ヨーグルト製品は日常生活で普通に接する食品であり、登録者も、「DANONE」および
「ダノン」が申立人のヨーグルト製品に使用される周知商標(ハウスマーク)であること
を、本件ドメイン名の登録時に認識していた筈であり、下記の事実から、登録者は、イン
ターネットの利用者を本件ドメイン名のサイトに誘引し、利益をあげることを目的として、
本件ドメイン名の登録を得たものと認定される。
 本件ドメイン名のウェブサイトは、「リヴィーズちょきんばこ」という名称であり、本件
ドメイン名の登録の直後から、継続して、多くのウェブサイトにリンクしている(甲第1
3号証、甲第14号証および甲第15号証)。本件ドメイン名のサイトを訪れた者が、当該
サイトにバナーを貼った広告主のサイトを訪れることにより、登録者は収益をあげること
になる。
 申立人は、パリのドレフュス法律事務所を通じて、本件ドメイン名が、日本国特許庁に
1977年1月10日に登録された商標 DANONEおよびダノン(登録第1245539
号)ならびに米国で登録された商標 DANNONの商品を探しているインターネットの利用
者を、リンクしたスポンサーのパーキングサイトに案内するものであり、インターネット
でウェブサイトを検索する者に対して申立人が本件ドメイン名を登録し、自らのウェブサ
イトを適切に維持していないという誤解を生じさせるので、本件ドメイン名の使用の即時
停止、その登録の抹消、および将来許諾なしに商標「DANONE」および「DANNON」を
使用しないという書面による約束を求める催告を書留、イーメールおよびファクスで20
09年2月10・11日、2月19日、3月5日および3月19日に行った(甲第16号
証の1および2)が、登録者は一切応答しなかった。

 以上の経緯から、登録者は、申立人の周知のハウスマークである「DANONE」および「ダ
ノン」と酷似した本件ドメイン名を、「DANONE」および「ダノン」の周知性に便乗して
不正の利益を得る目的で登録し、且つ使用していると認定される。

 6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「DANON.JP」
が申立人の周知商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が当該ドメイン名について権
利または正当な利益を有していない、登録者の当該メイン名が不正の目的で登録され且つ
使用されているものと裁定する。
 よって、方針第4条i に従って、ドメイン名「DANON.JP」の登録を取り消するものと
し、主文のとおり裁定する。

2010年5月7日

日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル

            小原喜雄

           単独パネリスト


別記 手続の経緯
(1)申立書受領日
   電子メール 2010年3月17日 書面 2010年3月19日
(2)手数料受領日
   2010年3月17日 申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
   2010年3月19日 JPRSへ照会
   2010年3月19日 JPRSから登録情報の確認
   確認内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること
(4)適式性
   日本知的財産仲裁センター(以下、センターという。)は、2010年3月19日
  に申立書が処理方針と規則に照らし適合していることを確認した。
(5)手続開始日 2010年3月23日
   手続開始日の通知 2010年3月23日
   申立人(電子メール、ファクシミリおよび郵送)並びにJPNIC及びJPRS(電
  子メール)へ通知
(6)登録者への通知日及び内容
   1) 2010年3月23日(電子メール、ファクシミリおよび郵送)
      ただし、郵送分は「不在のため保管期間を経過しました」として2010年4
     月5日、センター宛返送された。
   2) 申立書及び証拠等一式
   3) 答弁書提出期限 2010年4月20日
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
   日本知的財産仲裁センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2
  010年4月21日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通
  知書を、電子メールとファクシミリにて申立人および登録者に送付した。
(8)パネリストの選任 2010年4月27日
   申立人及び登録者のいずれもが三名構成のパネルを選択しなかった。
   中立宣言書の受領日:2010年4月30日
   パネリスト:小原 喜雄
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
   2010年4月27日 JPNICおよびJPRSへ通知(電子メール)
              申立人および登録者へ通知
              (電子メール、ファクシミリおよび郵送)
   裁定予定日:2010年5月21日
(10)パネリスト指名書及び一件書類受け渡し
   2010年4月27日(電子メールおよび郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
   2010年5月7日 審理終了、裁定。